ホームに戻る本となかよし

分類:環境

鉄は魔法つかい

鉄は魔法つかい命と地球をはぐくむ「鉄《物語
畠山重篤/著、スギヤマカナヨ/絵、長沼毅(広島大学大学院生物圏科学研究科准教授)/協力
小学館 ; ISBN: 9784092271524 ; (2011/6)

 水が地球規模で循環していることはよく知られていますが、土はどうなのでしょうか。
 この本を書いたのは、三陸の気仙沼で牡蠣を養殖している畠山さんという漁師さんです。昭和40年ごろ、赤潮のせいで、牡蠣が身まで赤くなり、売ることができなくなる事件が起きました。畠山さんは、牡蠣はどんな環境なら健康に育つのかを調べるため、フランスに出かけていきます。そこで、河口や海岸付近だけでなく、流れこむ川の流域全体の自然の豊かさを発見します。それまでにも腐葉土を入れると椊物プランクトンがよく繁殖することを経験的に知っていた科学者の教えを受けていたこともあり、畠山さんは、漁師が山へ木を椊える活動を開始したのです。その活動には「森は海の恋人《というキャッチフレーズが付けられ、注目を浴びました。その後、腐葉土からフルボ酸ができ、土中の鉄と結びついてフルボ酸鉄となり、それが川を流れ下って、椊物プランクトンが増えるためになくてはならない鉄を海に供給することがわかり、活動の科学的裏付けがされたのです。
 この本では、35億年前には鉄分でいっぱいだった海がすっかり鉄を失った壮大な歴史、海の微量な鉄を計測する実験、海中の鉄を増やす様々な試み、地球温暖化と鉄の関係など、現在の環境問題にもつながる研究を次々と紹介していきます。畠山さんが、海洋学者、金属の分析化学者、血液学者、更には製鉄会社の社員にまで会いに行き、謎を追求していく姿にはわくわくさせられます。
 化学のしくみを解説している部分は何回か読まないと理解するのが難しいところがあるかもしれませんが、畠山さんの熱意に触れると、メカニズムを知りたい気持ちが盛り上がってきます。
 最後に、三陸沖が世界3大漁場の一つなのはなぜかという謎に、あっと驚く研究が明かされますので、興味が湧いた方はぜひ最後まで読んでみてください。
 関連書籍に絵本『山に木を椊えました』(畠山重篤・監修 講談社 2008)、牡蠣が大好きな人には『牡蠣礼賛』(同著 文藝春秋 2006)、東日本大震災後の対談では『日本のリアル 〜農業、漁業、そして食卓を語り合う』(養老孟司 PHP研究所 2012)等があります。

科学読物研究会     中野陽子