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分類:人・社会・暮らし

アジアに共に歩む人がいる―ヒ素汚染にいどむ

アジアに共に歩む人がいる―ヒ素汚染にいどむ
川原一之 著 <岩波ジュニア新書521>
岩波書店 ; ISBN978-4-00-500521-7(2005年11月)

 日本の4大公害に入る土呂久のヒ素中毒事件、それは鉱山の周辺で起きた慢性のヒ素中毒症です。1971年、著者は赴任先の九州で、この事件に出会います。土呂久鉱山の周辺で100人近い住民が平均39歳の若さで死んでいる、ヒ素による黒皮症や呼吸器障害、さらにはがんを引き起こすことがわかり、著者は新聞記者をやめて、鉱山の責任追及と患者の支援に専念します。これは、30年以上、土呂久を拠点にアジアのヒ素汚染を追い続けている膨大な記録です。
 土呂久の公判後、この支援者団体はタイでのヒ素中毒調査の依頼を受け、活動をアジアに広げます。調査の結果、飲用井戸の汚染がわかり、安全な飲用水の確保のために、池の水の浄化やヒ素の除去を進めます。さらに、多くの国際機関や研究者の調査や研究から、アジア各国のヒ素汚染の報告が続きます。スズ鉱石や石炭に混じったヒ素、もっとも新しい地層を用いた浅い井戸のヒ素汚染、その原因は多様です。バングラデシュでは、3000万人がこの井戸水を飲んでいました。感染症を避けるために掘られた浅い井戸です。さらに栄養状態が悪いと、体内のヒ素の排出が遅れるのです。ヒ素の供給源は、ヒマラヤの造山運動で地表に出た岩石が風化し、大河の中・下流域に堆積している地層だと考えられます。鉄と結合していたヒ素が、なぜ地下水に溶け出すのかを調査するなかで、無理な灌漑や過剰な施肥、汚水の浸透がヒ素の溶け出しを促進していることがわかりました。
  各国の情勢やヒ素汚染の状況も異なり、支援活動や解決方法もその国が持続できる方法が求められます。ポンド・サンド・フィルターや生物浄化の簡易水道などを開発し活用しています。この土呂久の支援者団体は、アジアの汚染地域の人、研究者、技術者、医療関係者、学生らを巻き込み、1994年にNPOアジア砒素ネットワークを設立しました。人と情報を結びつけ、国際機関や現地の政府とも組み、患者の支援、汚染の調査と解決に向けて活動しています。著者は、若い人たちに、地下の環境科学に挑戦し、ヒ素汚染の村に飛び込み、問題の解決に協力してほしいと願っています。
 貧困と水問題、洪水、さらには国際援助のむずかしさが絡み重い内容です。しかし、活動のやりがいと人々の熱意が伝わり、様々な立場の人や若い人の協力に希望を感じます。国境を越えて、こういった問題に正面から取り組んでいる日本人がいることを知ってほしいと思います。

科学読物研究会     増本裕江